構造化×感受性で実現するマネジャーの戦略的対話術

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職場で本音を話せないと感じる人が2人に1人という現代組織の課題に対し、対話の本質的な変革を通じた解決の道筋を示す。マニュアルや形式知による「構造化」と、他者への関心や応答を重視する「感受性」の両輪から、新しい対話のあり方を探求する。歴史的な対話理論と実践的な企業変革事例を紐解きながら、自発的な行動を促す職場づくりのエッセンスに迫る。

対話の質が問われる時代へ

組織における対話の重要性が増す中、多くの企業が1on1の導入や対話の質向上に取り組んでいます。
しかし、その効果を実感できている組織はどれほどあるでしょうか。

パーソル総合研究所の調査によると、職場内で本音で話せる相手が「1人もいない」と答えた人が2人に1人という結果が出ています。
また、本音で話せない要因として最も多く挙げられたのが「自分に対して無関心な関わり方」でした。

このような状況の中、エンゲージメントスコアを上げ、「この組織で良かった」と思える職場づくりのために、私たちは何をすべきなのでしょうか。

変革の鍵を握る「構造化×感受性」

対話の質向上において、単なるスキルの向上や形式的な場づくりだけでは十分ではありません。
今、求められているのは、組織の対話そのものを変革する新しいアプローチです。

1. 職場内対話の問題の所在

本音で話せない組織の実態

職場における対話の課題は、想像以上に深刻な状況にあります。
パーソル総合研究所の調査によると、職場内で本音で話せる相手が「1人もいない」と答えた人が2人に1人という結果が出ています。
この数字が示すのは、単なるコミュニケーション不足ではなく、組織の対話基盤そのものへの警鐘と言えるでしょう。

無関心という最大の阻害要因

本音で話せない要因として最も多く挙げられたのが「自分に対して無関心な関わり方」です。
この「無関心」は、形式的な1on1や会議の実施だけでは解決できない本質的な課題を含んでいます。
相手への関心を持って接することは、効果的な対話の大前提なのです。

求められる「ビジョン型」リーダーシップ

興味深いことに、日本経済新聞の2024年の調査では、社員が求める上司像として「ビジョン型」が最多(30%)となっています。これは「コーチング型」(25%)や「先導型」(11%)を上回る結果でした。
組織のメンバーは、単なる指示や助言ではなく、明確なビジョンを示し、共に目指す方向性を語れる上司を求めているのです。

進行する潜在的リスク

このような対話の課題が解決されないまま放置されると、「ホワイト離職」や「低モチベーション」という形で表面化してきます。
一見平穏に見える職場でも、「やっても、やらなくてもいい」という無関心から生まれる孤独感が、生産性や生活の質に悪影響を及ぼしかねません。

2. 対話の歴史的解釈

古典から学ぶ対話の本質

対話の本質を理解するために、歴史的な知見を振り返ってみましょう。
紀元前からソクラテスは「無知の知」という概念を通じて、答えのないものに対して問いかけることの重要性を説いていました。
この姿勢は、現代の組織における対話にも重要な示唆を与えています。

人間性への着目

20世紀に入ると、マルティン・ブーバーが「我-汝関係」という概念で、対話における人間同士の関係性の重要性を指摘します。
続くレヴィナスは「応答責任」という考え方で、他者との対話において、言い聞かせるのではなく、問いに応え続けることの重要性を説きました。

現代における対話の意味

1970年代にバフチンは「対話主義」を提唱し、対等な関係性を保ちながら応答し続けることの重要性を説きました。
さらに、デヴィット・ボームは「議論から対話へ」という著作で、認識や意見への執着を認識することの重要性を指摘しています。

3. 組織における対話変革の実践

製造メーカーの事例:仕組みと感情への着目

ある製造メーカーでは、不良品率12%という課題を抱えていました。
当初は「誰が悪いのか」という責任追及の対話が中心でしたが、仕組みに焦点を当てながら、他者の感情や内面への興味関心を持った対話に転換することで、不良品率を2%まで改善することができました。

広告会社の事例:構造化された対話の実現

広告会社の事例では、契約数の低下という課題に直面していました。
成功要因を構造化していく対話によって、顧客との対話時間が確保されるようになり、結果として契約数が前年比10%増加という成果を上げることができました。

「構造化×感受性」の重要性

これらの事例から、効果的な対話には「構造化」と「感受性」の両立が不可欠であることが分かります。
構造化された対話の枠組みを持ちながらも、相手への関心と共感を失わない。
この両輪があってこそ、納得感のある行動を生み出す対話が実現できるのです。
そして、納得感のある行動を生み出す対話は、「この組織で良かった」という成長実感をもたらすと同時に、「もっとこうしたい」というオーナーシップの向上を実現します。

4. 対話改善へのステップアップ

対話の6つの要素

効果的な対話を実現するために、以下の6つの要素に着目する必要があります。

  1. 目的設定:場への期待やゴールを合意する
  2. 自他理解:お互いの解釈の違いを尊重しながら発散する
  3. 判断軸設定:ゴールに向けて判断軸を設け整理する
  4. 意思決定:結論の魅力を共有し合意する
  5. 基礎スキル:聞く・話す・促すという基本的なスキルを発揮する
  6. 行動の見通し:裁量を与え”やり切る”支援をする

ケース企業における対話の評価

対話の傾向を示す6つの要素で、先ほどのケース企業を評価すると、以下のようになります。

対話の傾向が可視化していくことによって、自社の風土に合わせた対話文化形成を進めていくことができます。

まずは、自社内において、「構造化」する対話と「感受性」を発揮する対話のどちらが優位になっているのかを考えていきましょう。

そして、対話の6つの要素から、コミュニケーションのボトルネックを発見して、打ち手を導き出していきましょう。

5. 実践のためのアクション

対話の傾向診断の活用

自組織の対話の現状を客観的に把握するためには、定期的な対話の傾向診断が有効です。診断結果を基に、改善のための具体的なアクションプランを立てることができます。

アンドアでは、対話の傾向を可視化するシンプルな診断を使って、現状理解から課題解決を支援しています。

現在、人事担当者の方々へ無料体験を実施中です。気になる方は、以下からお問合せください。

チーム内での対話実践

実践においては、以下の点に注意を払う必要があります

  • 対話の目的を明確にする
  • 相手への関心を持ち続ける
  • 構造化と感受性のバランスを意識する
  • 継続的な改善を心がける

「決めるまで」と「決めた後」の支援

多くの組織で見落とされがちなのが、「決めた後」の支援です。

アンドは、目標を決めるまでの支援だけでなく、決めた後の実行支援まで一貫して行うことで、真の行動変容実現に向けて支援を行なっています。

おわりに

対話の質を高めることは、一朝一夕には実現できません。
しかし、理論的背景を理解し、具体的な実践方法を知ることで、確実に改善への道筋を描くことができます。

本講演で示された「構造化×感受性」という視点は、現代の組織が直面する対話の課題を解決するための重要な示唆となるでしょう。
対話の質を改善することによって、一人ひとりが「この組織で良かった」と実感でき、オーナーシップが発揮される職場づくりに向けて、まずは身近なところから対話の質を高めていくことを心がけていきましょう。

執筆者

堀井 悠

スターバックス、学習塾、リクルートを経歴し、大手・ベンチャーのカルチャーを経験。 人材組織開発コンサルティング企業で、自動車メーカー、食品会社、スタートアップ事業で企画、開発、講師を経験。 独自の理論「腹割り対話でつくる組織変革」を提唱。 モットーは「あした、また、がんばろう」と思えるチームを増やすこと。

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