仕事を進めていく上で、上司と部下のコミュニケーションは、成果に大きな影響を与えています。今回は「言葉に敏感な人」に焦点を当てて、口癖やコミュニケーションのポイントを具体的に解説していきます。
職場でのコミュニケーションにおいて、上司の言葉は部下のモチベーションや仕事の進め方に大きな影響を与えます。特に「言葉に敏感な人」にとって、何気なく放たれた一言が、仕事の質や組織へのエンゲージメントに直結することがあります。しかし、多くの上司は、自分の言葉がどのように受け取られているのかを意識することなく、日々の業務を進めています。
本コラムでは、「言葉に敏感な人」が職場でどのような影響を受けているのか、具体的にどんな言葉が部下を傷つけているのかを掘り下げた上で、上司としてのより良い言葉遣いについて考えていきます。ちょっとした言葉の選び方を変えるだけで、部下のモチベーションが上がり、チーム全体のパフォーマンスが向上することを実感できるはずです。
言葉に敏感な人は、ただ言葉を聞くだけでなく、その背後にある感情や些細な変化まで感じ取ります。「うん」という短い返事にも、その場の空気や前後の文脈から、隠された本音や意図を読み取る力を持っています。
このような感受性は、ときに人を疲れさせることもあります。しかし、それは単なる「気にしすぎ」ではなく、相手の感情や場の空気を敏感に察する力の表れでもあります。言葉に敏感な人は、相手が言葉にしなかった気持ちを汲み取り、先回りして気を配ることも多く、組織の中で緩衝材のような役割を果たすことができるのです。
何気ない一言にどれほどの意味が宿るのかを意識することが、より良い職場をつくる第一歩になるでしょう。
言葉に敏感な人、いわゆるHSP(Highly Sensitive Person)は、全人口の15〜20%にあたるといわれています。職場では5人に1人がその特性を持っている計算になります。そのため、人とコミュニケーションを取る以上、自分の日々の言葉遣いについて意識することが大切です。些細な言葉の選び方が、チームの雰囲気や仕事の進め方に大きく影響を与えます。
言葉に敏感な人は、仕事をする前に「上司の言葉の意図」や「その言葉の背景」に引っかかってしまうことがあります。
例えば、上司から「やっといて」と言われたとき、普通であれば「仕事を依頼された」とシンプルに受け取るかもしれません。しかし、言葉に敏感な人は、そこに込められた「ニュアンス」を感じ取ります。「適当に扱われているのではないか」「感謝されていないのではないか」「自分の仕事は単なる雑務なのではないか」と考えてしまい、その思考にエネルギーを使ってしまうのです。
その結果、仕事に100%の力を注ぐことができず、パフォーマンスが落ちることになります。
上司と話すたびに心がざわついたり、傷つくことが続くと、「この上司とはできるだけ関わりたくない」と思うようになります。さらに、「この発言を誰も指摘しない」という状況を目の当たりにすると、組織全体に対する不信感が芽生えます。
こうした感情が蓄積されることで、組織へのエンゲージメントやロイヤリティが低下し、最終的には「転職」を考え始めることもあります。
適切な言葉遣いをすることで、部下は「自分は大切にされている」と感じることができます。こういった感情は、部下の貢献意欲と所属意識に影響を与え、「上司は忙しそうだから、少しでも力になりたい」と上司や組織への自発的な行動に繋がります。
上司に対して「怖い」「話しかけにくい」と思われると、報告や相談が減り、業務の遅れやミスが増えます。部下の尊厳を大切にする姿勢を持って、丁寧な言葉を使うことで、部下が安心して話しかけられる環境を作ることができます。
言葉遣いの工夫で心理的安全性が高まると、意見を言いやすくなり、結果的に組織の生産性が向上します。また、部下を対等に思う気持ちは部下にも伝わり、斬新なアイデアをくれることもあるでしょう。
NG:「やっておいて」 → OK:「お願いできる?」
仕事の依頼としてはシンプルですが、「やっておいて」には感謝のニュアンスが感じられません。それどころか、適当な依頼の仕方でも動くと思われていることに対して、侮辱されている・雑に扱われているとも感じます。「お願いできる?」のように柔らかい表現にするだけで、部下のモチベーションは変わります。
NG:「こんなの、できて当たり前だから」 → OK:「こういう考え方もあるよ」
「こう考えるのは当たり前だから、君は間違っている」というニュアンスで使われる「当たり前」という言葉は、部下にとっては「自分の考えは間違っている」と思わされる原因になります。上司の中での「当たり前」は、部下に最初から備わっているものではないです。「当たり前」と自分にとっての正解を「押し付ける」のではなく、「こういう考え方もあるよ」と上司は何をどう考えたのかを「説明する」だけで十分です。部下はまだ知らなかった「当たり前」と言われることをストレスなくインプットすることができます。
NG:「@〇〇」 → OK:「このスレッドの内容を把握しておいてね」
リモートワークも増えてくる中、SlackやTeamsでただメンションだけを送られると、「勝手に読んで理解しろ」と言われているように感じます。部下はもちろん「このスレッドの内容を把握しておいてね」という意図を感じ取ることはできますが、扱いの雑さも感じさせることになります。メンションだけでなく、「このスレッドの内容の把握をお願いします」と一言添えるだけで、部下のストレスが減ります。
NG:「ん?なんでそうなった?」 → OK:「どういう背景でそう考えたのか聞いてもいい?」
「ん?」には「なんでそんな考えになるの?」という否定のニュアンスが含まれています。部下から出てきた提案などに、意図的にネガティブな意味での驚きを表現しているのを、部下は感じ取ります。馬鹿にされているのを感じて憤りを覚えることもあれば、「私はそんなにびっくりされるほど間違ったことを言ってしまったのか」と過度に自分を出来損ないだと思い込んでしまうこともあります。部下の意見を尊重する姿勢を示すためには、フラットな聞き方を意識すると良いでしょう。
「そんなに丁寧にやっていられない!」という意見もあると思いますが、言葉に気を配ることは、単なる「優しさ」ではなく、長期的に見たときの組織全体の生産性向上にもつながります。
実際には、雑な言葉遣いによって生まれる誤解やモチベーションの低下こそが、業務効率を下げる原因になっていることもあります。
例えば、曖昧な指示や冷たい言葉によって部下が不安を感じたり、やる気を失ったりすると、確認のやり取りが増えたり、意図が伝わらず手戻りが発生したりすることがあります。逆に、最初に少し丁寧な言葉を使うだけで、スムーズな進行や部下の自主性を促すことができるのです。
短いやり取りで済ませることが必ずしも効率的とは限らず、「伝え方」にこだわることが、結果的にチームの成果を最大化するポイントになるのです。
シチュエーション | NGな言葉 | 良い言葉 |
---|---|---|
仕事を依頼するとき | 「やっておいて」 | 「お願いできる?」 |
部下の意見に疑問を持ったとき | 「ん?なんでそうなった?」 | 「どういう背景でそう考えたのか聞いてもいい?」 |
チャットで情報共有するとき | 「@〇〇」(メンションを飛ばすだけ) | メンション+「このスレッドの内容を把握しておいてね」と一言添える |
部下の意見を否定するとき | 「普通はこうするでしょ」 | 「こういうやり方もあるよね」 |
部下のミスを指摘するとき | 「なんでこんなミスするのか説明して」 | 「ここ、次はこうするといいね」 |
納期が厳しいとき | 「急ぎでやって」 | 「◯時までに仕上げられそう?」 |
ミスを責めるとき | 「これ、間違ってるよ」 | 「ここ、こう修正するともっと良くなるね」 |
会議中に意見を求めるとき | 「〇〇さん、今日全然発言してないね」 | 「◯◯さんの考えも聞かせてもらえますか?」 |
何かを教えるとき | 「こんなの常識でしょ?」 | 「こういうケースでは、こう考えるといいですよ」 |
仕事を急かすとき | 「まだ終わってないの?」 | 「どれくらいで終わりそうですか?」 |
作業の進め方を指示するとき | 「適当にやっといて」 | 「◯◯のポイントを抑えて進めてもらえますか?」 |
部下の意見に疑問を持ったとき | 「それって本当に正しいの?」 | 「その考えに至った理由を教えてもらえますか?」 |
上司の何気ない一言が、部下のモチベーションや組織への信頼に大きな影響を与えます。「ちょっとした言葉遣いなんて気にする必要があるのか?」と思うかもしれませんが、小さな配慮が積み重なれば、部下は安心して働くことができ、結果的に仕事のクオリティやチームの生産性が向上します。
「部下が敏感すぎる」のではなく、「上司が少しだけ言葉に気を付ける」ことで、より良い職場環境が作れるのではないでしょうか。
スターバックス、学習塾、リクルートを経歴し、大手・ベンチャーのカルチャーを経験。 人材組織開発コンサルティング企業で、自動車メーカー、食品会社、スタートアップ事業で企画、開発、講師を経験。 独自の理論「腹割り対話でつくる組織変革」を提唱。 モットーは「あした、また、がんばろう」と思えるチームを増やすこと。
企業の成長を遂げるためには、パーパス・理念を中心に据えた「チームのリ・ブランディング」が重要です。 本資料では、このリ・ブランディングを効果的に進めるための手法として、個々の違いを新しい価値として活かし、チーム全体のパフ […]
資料内容 「人的資本」や「エンゲージメント」の重要性が高まっている現代。キャリア形成においても、社員一人一人の具体的な方向性が求められています。パーパス浸透施策を通して、社員のパーパスを築く支援をする中で、多くの企業に共 […]
弊社は、貴社の課題に合わせてカスタマイズしたサービスをご用意いたします。
まずは気軽にお問い合わせ・資料請求をお願いいたします。