本記事では「対話」と「議論」の違いから、なぜ現代のビジネスにおいて対話力が重要なのかを解説。実際に離職率を45%から5%に改善した企業事例と共に、明日から使える「きっかけ砂時計」モデルなど対話力向上の実践的手法を紹介します。
目次
「なぜうちの会社は変われないのだろう」 「部下が本音を話してくれない」 「新しいアイデアが生まれにくい職場になっている」
こうした悩みを抱える経営者やマネジャーは少なくありません。組織の課題を解決し、イノベーションを生み出すために、今注目されているのが「対話力」です。なぜ今、対話力が重要視されているのでしょうか。その背景と本質に迫ります。
まず、「対話(ダイアローグ:Dialogue)」とは何かを明確にしておきましょう。対話とは、「全員の意見を尊重しながら、新しい意味やアイデアを作り、共有する」コミュニケーションのことです。一見すると普通の会話のように見えますが、その本質は大きく異なります。
対話と混同されがちな「議論(ディベート)」と「会話(カンバセーション)」との違いを整理してみましょう。
議論が「どちらが正しいか」を競うのに対し、対話は「共に新しい視点を見つける」ことを目指します。会話が情報のやり取りに終始するのに対し、対話は意味や価値を共創していくプロセスなのです。
なぜ今、対話が重要視されているのでしょうか。その背景には、産業構造の大きな変化があります。
かつての製造業中心の時代では、「より良いエンジンの開発」のように、明確な「正解」が存在する課題が中心でした。このような環境では、議論を通じて最適解を見つけるアプローチが有効でした。
しかし現在は、「どのようなモビリティサービスを設計するか」といった、正解のない課題が増えています。技術革新やグローバル化により価値観が多様化し、一つの正解を見つけるだけでは解決できない複雑な問題が増えているのです。
このような「正解のない時代」において、異なる視点を尊重し、共に新しい価値を創造する「対話」の重要性が高まっているのです。
対話の重要性は、古代から認識されてきました。その歴史と思想的背景を紐解くことで、対話の本質をより深く理解することができます。
ソクラテスが「無知の知」の概念を通じて、対話の重要性を説きました。
ソクラテスは、「自分が無知であることを知っている」という謙虚さから対話を始め、問いかけを通じて相手の思考を深めていきました。
この「ソクラテス問答法」は、結論よりも思考プロセスを重視する対話の原点と言えるでしょう。
量子物理学者デイビッド・ボームは、「対話とは、互いの執着を手放し、新しい視点を生み出すこと」と定義しました。
自分の考えに固執せず、共に探求することで、個人では到達できない洞察が生まれるという考え方です。
興味深いことに、この考え方は仏教思想とも共通点があります。
執着を手放し、あるがままを受け入れる姿勢は、真の対話を生み出す土壌となります。
対話の重要性が高まる一方で、日本企業の現状はどうでしょうか。
パーソル総合研究所の調査によれば、職場で「本音で話せる人がいない」と感じている人は約50%、つまり2人に1人にのぼります。
この数字は、日本の組織における対話の危機を示しています。
本音で話せない組織では、以下のような問題が生じます。
1.問題の早期発見ができない
2.イノベーションが生まれにくい
3.従業員のエンゲージメントが低下する
4.人材流出のリスクが高まる
対話の不足は、組織の課題を深刻化させる要因となるのです。
では、リーダーはどのような対話力を身につければよいのでしょうか。ここでは、単なるテクニックではなく、対話の本質に迫るアプローチを考えていきます。
日経新聞が実施した「メンバーが求める上司のタイプ」の調査結果によれば、最も支持されたのは「ビジョン型(30%)」、つまり「ありたい姿を一緒に考える上司」でした。2位は「コーチング型」で「問いかけを通じて考えを引き出す上司」、3位は「先導型」で「高いパフォーマンスで方向性を示す上司」となっています。
注目すべきは、1位の「ビジョン型」が単なる「ビジョンを提示する」ではなく、「一緒に考える」という点です。これは、トップダウンではなく、対話を通じてビジョンを共創することの重要性を示しています。
「対話力を高める」というと、多くの人が「コーチング」を思い浮かべるかもしれません。確かにコーチングは対話の一形態ですが、ビジネスの現場で必要とされる対話は、単なるコーチングとは異なります。
対話は「コーチング」ではなく「共創」です。コーチングが「問いかけを通じて相手の答えを引き出す」のに対し、対話は「共に考え、仮決めしていく」プロセスです。
コーチングが機能しにくい理由の一つは、問いかけるだけでは、メンバーの納得感が得られにくいということです。特に複雑な問題に直面しているときや、経験が不足している場合、「自分で答えを見つけなさい」という姿勢では、メンバーは不安や孤独を感じてしまいます。
真の対話では、リーダーも自分の考えを開示し、共に考えを発展させていく姿勢が重要です。
では、具体的にどのように対話を進めればよいのでしょうか。特に1on1において効果的なのが、「きっかけ砂時計」と呼ばれるフレームワークです。
きっかけ砂時計の基本的な流れは以下の通りです。
従来の1on1が「問いかけ→回答」という単調な流れになりがちだったのに対し、きっかけ砂時計では対話に「流れ」を作り出します。単なる質問スキルではなく、対話全体をデザインすることが重要なのです。
対話力を高めることで、実際にどのような変化が生まれるのでしょうか。ここでは、実際の事例を通じて、対話がもたらす効果を見ていきましょう。
ある3500人規模の自動車販売会社では、深刻な組織課題を抱えていました。
・離職率45%(特に若手社員の離職が顕著)
・営業成績が業界下位
・店舗間の連携不足による非効率な業務
この会社が取り組んだのは、「対話のデザイン」を中心とした組織改革でした。
具体的には、「きっかけ砂時計」を活用し、店長の役割を「指示する人」から「対話を通じて共に考える人」へと再設計しました。
店長向けの研修では、対話の基本的な考え方や具体的な対話の進め方を学んだ後、実際の1on1で実践するというサイクルを繰り返しました。
また、対話のデザインを組織文化に落とし込むため、店長会議や朝礼の形式も変更。
一方的な指示伝達の場から、互いの成功体験や課題を共有し、共に解決策を考える場へと変えていきました。
その結果、驚くべき変化が生まれました。
・離職率が45%から5%に改善
・営業成績が業界下位から上位へ
・社員の自発的なビジョン策定が進む
特筆すべきは、数字の改善だけでなく、社員の行動や姿勢にも大きな変化が見られたことです。
「言われたことをこなす」という受動的な姿勢から、「自分たちで考え、行動する」という主体的な姿勢へと変わっていったのです。
対話の重要性を経営層に訴える際、効果を数字で示すことも重要です。
実際、対話の不足がもたらす損失は、想像以上に大きいものです。
ある試算によれば、社員1000人規模の企業において、対話の不足による損失は年間9億円以上にのぼるとされています。その内訳は以下の通りです。
対話への投資は、単なる「社員満足度向上」のためではなく、経営上の重要な投資であることを数字で示すことができます。
対話が社内のエンゲージメントと業績向上に直結するという事実は、経営判断において極めて重要な視点となるでしょう。
本コラムでは、対話の本質と実践方法について見てきました。
対話の本質は、「相手の意見を尊重しながら、共に新しいアイデアを創出する」ということです。
これは「相手に考えさせる」というコーチングの概念を超え、「共に考え、共に創る」という共創のプロセスです。
多様な視点を統合し、新たな価値を創造できる組織こそが、変化の激しい環境で生き残ることができるのです。
その意味で、リーダーの対話力を高めることは、組織の未来への投資と言えるでしょう。
対話力を高めるための第一歩として、「きっかけ砂時計」などのフレームワークを活用することをお勧めします。
1on1や日常的なコミュニケーションの中で、意識的に以下のステップを踏んでみましょう。
このフレームワークを繰り返し実践することで、対話のスキルが自然と身についていくでしょう。
最後に強調したいのは、対話は「偶然生まれるもの」ではなく、「意図的にデザインするもの」だということです。
組織のエンゲージメントを高めるためには、対話の機会と質を意識的にデザインすることが重要です。
1on1、チームミーティング、全社ミーティングなど、様々な場面で対話が生まれるよう、以下の点を取り入れていきましょう。
対話のデザインを意識し、組織全体の対話力を高めていくことで、社員のエンゲージメントは自然と向上していくでしょう。
「対話」は、組織変革の最も強力なツールの一つです。
明日から、あなたの組織でも対話の質を高める取り組みを始めてみませんか?
スターバックス、学習塾、リクルートを経歴し、大手・ベンチャーのカルチャーを経験。 人材組織開発コンサルティング企業で、自動車メーカー、食品会社、スタートアップ事業で企画、開発、講師を経験。 独自の理論「腹割り対話でつくる組織変革」を提唱。 モットーは「あした、また、がんばろう」と思えるチームを増やすこと。
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