変化が早くなっている現代では、OJTの重要性が増しています。しかし、OJT施策がうまくいかない事例も多いです。今回は、OJT施策が失敗している理由とうまくいくためのポイントを解説します。
OJT(On-the-Job Training)とは、仕事の現場で実践的な経験を積みながら研修を行う方法です。
OJTの目的は、新入社員や未経験者が仕事に必要なスキルや知識を習得し、現場で即戦力として活躍できるように育成することです。
OJTは、研修と実務を同時に行うことで効率的に学びながら成長できるメリットがあります。
OJTを通じて経験を積むことで、実際の業務に即したスキルやコミュニケーション能力を身につけることができます。また、先輩社員や上司の指導のもとで働くため、受け身ではなく自発的に学ぶ姿勢を身につけることもOJTの重要なポイントです。
OJTと比較される表現にOFF-JTがあります。
Off-JTとは、「Off-The-Job Training」の略で、研修など実務の場を離れて行う教育施策のことです。新入社員研修や管理職研修、など、様々なOff-JTを実施していることと思います。
OJTとOFF-JTの違いは以下の図のようになります。
(アンドア株式会社)
これまでOJT施策に対してサポートを行う中で、
OJT施策や制度を導入している多くの企業が抱えている課題があります。
施策の問題とOJT担当者が抱える課題について紹介します。
OJTを導入している企業から一番聞くのは、「OJTは現場に任せてしまっている」という声です。OJTは、現場で行われるトレーニングですので、どうしても人事や経営から見えにくくなってしまう傾向があります。
これによって、OJTの課題や問題を把握することができず、とりあえず例年通りに実施するという状態が起きてしまっています。
現在OJTを実施している企業様は、OJTの目的・目標はあるでしょうか?そして、目的・目標は、現場と合意されているでしょうか?
よくある課題の一つは、OJTの目標が「人事が決めた」「現場が決めた」と、どちらかに偏ってしまうことで、責任の所在が不明確になってしまうことです。
これによって、現場でOJTを担う担当者が、何を目指すべきかがわからなくなり、OJTを自己流のみで行ってしまい、成果がでないということに繋がっています。
OJT担当者からよく聞く声として、「OJTをやっている余裕がない」というものがあります。
OJT担当者は、自分の業務に加えて、OJT業務も担当するため、どうしても負担が大きくなってしまいます。この問題によって、OJT施策を取りやめたという企業様のお話も聞いたことがあります。
しかし、この問題の本質は、OJT担当者の負担が増えた際に、OJT業務を上司に渡す、周囲に支援を要請できるなど、体制が整っていないことにあります。
OJT担当者が一人で抱え込んでしまう現状を打開する必要があります。
OJT担当者の多くが、OJTを1年で終えます。それによって、1年間で即戦力として育てることを目指します。
しかし、人材育成というのは、より長期的な視点が必要です。
短期的な視点のみで育成に関わってしまうと、「スキルができた/できない」「仕事ができた/できない」といった評価の観点が強くなってしまう傾向があります。
これは、トレーニーにとって成長実感を得ることにつながらず、多くの社員が自信と意義を喪失した仕事に繋がってしまっています。
トレーニーの成長実感も重要ですが、OJT担当者自身の成長実感も重要になります。
OJT担当者を行うまでの自分の仕事ぶりやOJT担当者期間を通しての成長を感じられるようにすることも必要です。
しかし、仕事の経験を言語することができず、自信が低い状態でOJT担当者をやられる方々もいます。
その状態でOJT担当者を担うことによって、新入社員/トレーニーも自信を失うというサイクルが発生している現状があります。
近年になって新たに発生している問題があります。
それは、OJT担当者がついており一緒に教えているはずなのに、新入社員/トレーニーが、仕事を抱え込んでしまって、受け身状態での仕事から抜け出すことができないという問題です。
これまでのティーチング・コーチング型のOJTでは対応ができなくなってきています。OJTを通して、自発的に学び、成長を促すために必要なことが何かを再考する時期になってきていると言えます。
では、これらの課題をクリアして、企業・OJT担当者がOJTを行うために必要なことはなんでしょうか?
まず、OJT施策を現場任せになってしまっている現状は、打開すべきです。
例えば、新入社員向けOJTであれば、1年後の状態、3年後の状態とゴールを設定した上で、現場のOJT担当者やOJT上長と一緒に、各現場に合わせた1年後のゴール像を設定する必要があります。
このプロセスを現場に任せてしまうことも多いですが、このプロセスこそ人事と現場が一体になって決めていく意味があります。
最初は時間がかかることもありますが、初年度に決めておくことによって、複数年にまたがって定点観測をすることもできる大切な要素と言えます。
OJTが実際にスタートすると、途端に現場の育成状況が見えにくくなります。
そのため、OJT担当者が一人で育成を抱え込んでしまい、ゴール像への意識と長期的な人材育成への意識が希薄になってしまいます。
OJTが始まるタイミングで、OJT担当者とOJT上長に対して、周囲を巻き込むための仕掛け・仕組みを説明しておきましょう。
これからの時代では、育成を一人で行うのではなく、複数人で育成を行う重要性を認識してもらっておくことも必要になります。
OJTは相手に合わせて対応を変えていく必要があります。
そのため、相手の傾向や価値観などを観察と対話によって、把握することが重要です。
この話をすると、下記のような声をいただきます。
「仕事として覚えることや達成しないといけないことがある。
相手に合わせてばかりではいられない。」
ここには、勘違いがあります。
相手を理解することと、仕事のやり方や価値観を相手に合わせることは違います。
相手を理解することにより、仕事の進め方や指導方法を相手が受け取りやすい形に翻訳することが、他者理解を行う理由です。
OJTを実施する上でのポイントはご理解いただけたでしょうか。
OJTを効果的に運用していくためには、OJT担当者が賞賛を受ける場を作ることや、上司・人事との定期的な面談、育成シートなどの活用と様々な手段があります。
当社では、これらの施策に加えて、OJT担当者とOJT上長を巻き込んだ研修を実施することをお勧めしております。
OJT研修では、3つのポイントを押さえることが必要です。
OJT担当者は、自分自身の業務と一緒に育成業務を行うことが多く、業務上の負担が大きくなります。そのため、OJT担当者が担う業務への「意味付け」が本人の中でできていないと、優先順位を下げてしまい、OJTが実施されないということがおきます。
こういった事態を避けるためには、OJT担当者が持つ「動機」を理解しながら、OJT業務が持つ「意味」を共に考える場が必要になります。一方的に、伝えるだけではなく、考える場がなければ、「意味付け」は行われないというのが、これまでOJT施策を支援してきて、私たちが感じているところです。
次に考えるべきは、OJT担当者を一人にさせないということです。あえて、OJT担当者とOJT上長を一緒に集めることによって、現場に戻ってからも進めやすいOJTを考えていくことができます。
ここで大切なのは、OJTのスキルを伝えるのではなく、中長期的な人材育成のゴールを話し合うということです。「Aという業務ができるようになってほしい」というゴールではなく、「1年後には1つの案件で、リーダーシップを発揮してほしい」という役割・能力上のゴールを決めておくことが重要です。
これによって、OJTが始まった後、新人やトレーニーの能力を短期的な視点で判断することなく、人材育成を長期的な観点から進めることができます。
”上司の関わりについては、弊社代表堀井が詳しく記事を書いておりますので、
こちらもご覧ください。”
https://note.com/horiihisashi/n/n0fdd51cbeecf
最後のポイントは、内省支援を進めるやり方をトレーニングしておくことです。
多くのOJT研修では、ティーチングやコーチングなどの指導育成スキルを扱うかと思いますが、私たちはそれ以上に「内省支援」を行えることが重要であると考えています。
2つの理由があります。
1つ目は、仕事を通して成長を生み出すためには、内省が必須スキルだからです。
経験学習サイクルをご存知の方も多いと思いますが、社会人の成長は、「経験→内省→概念化→挑戦」というサイクルを描くことが必要だと言われています。
正解がない仕事に取り組む上で、自分の経験から学び続けることができるスキルは、後々大きなインパクトを生み出します。
OJTの中で、内省を支援することが、新入社員・トレーニーの内省力を強化し、自発的に学び成長していくことに繋がっていきます。
2つ目は、内省は習慣化が必要なものだからです。
内省が習慣にならなければ、多くの方はやらなくなってしまいます。
内省を止めてしまうと、自分の感情・思考などを言語化することが苦手になり、
「なんだかモヤモヤする」「よくわからないけど、このままでいいのか」といった、よくある社会人の悩みに繋がります。
一方で、内省を習慣化させておくことによって、
「自分のやりたいことは・・・」「この仕事の社会的な意味は・・・」など、
仕事への誇りや、ビジョンの言語化といった重要な要素に繋がっていきます。
内省支援を行うことができるOJTの期間で、内省を習慣化しておくことが長期に渡って影響を及ぼします。
OJT担当者やOJT上長が内省支援を行うためには、自身も内省をしておく必要があります。
そのため、研修やワークショップの場では、本人の内省を通して、内省支援のスキルを習得してもらうことが必要になります。
※もちろんティーチングやコーチングなどのスキルは、e-learningなどを用いて学んでいただきます。
OJTを効果的に行うために必要なOJT研修の内容をご紹介してきました。
ここでは、OJTを成功に導く4つのステップについてご紹介します。
最初は、相手を知るためのステップです。
人材育成の観点を持って、他者と関わるのは、OJT担当者が初めてという方もいらっしゃいます。そういった方々は、まず他者理解するためのフレームを持っていないことが多いです。
この最初のステップでは、相手の特性や価値観を把握して、今後の育成プランに役立てる情報を得ることを目指しましょう。
次に、相手の特性を理解した上で、ゴールとプロセスを新入社員・トレーニーと合意することが重要です。
このステップがなく、次のステップに入ってしまうと、学ぶ側が「なぜ教えられているのか」を理解できず、受け身の姿勢から抜け出せなくなってしまいます。
相手の主体的な学びを作るためにも、相手の「現状」と「ありたい姿」を話しておくようにしましょう。
次に、相手の特性に合わせて、OJT担当者が実際に業務をやってみせるステップになります。
ここでは、仕事の一つ一つの段取りを意識しながら、意図的に仕事を細かく分けて、一緒に実施していきましょう。
この際に、仕事の上で特に重要なポイントと、やりがいに繋がるポイントを、OJT担当者の言葉で語ることができると、動機づけに繋がります。
業務を実際に新入社員・トレーニーにやってもらうステップになります。
ここでは、OJT担当者は業務をしている姿を見守りながら、必要があればアドバイスや次の手順を示すことをします。
OJT担当者や上司・周囲の先輩といった方々と、新入社員・トレーニーが繋がりを作る機会にもなりますので、OJT担当者が一人で教えすぎず、他者へ相談を促すことも必要になります。
最後に、業務・仕事の内容について新入社員・トレーニーと話し合いましょう。
フィードバックは2種類あり、成果に繋がる行動を強化するフィードバックと、成果につながらない行動を是正するフィードバックです。
ここでのポイントは、OJT担当者が一方的に評価するのではなく、相手と仕事の出来栄えを話しながら、フィードバックを加えていくことです。
OJT担当者は、上司や先輩が担うため、個人の裁量によって質の担保が難しい傾向があります。一方で、OJTを現場任せにせず、会社全体で取り組むことによって、組織全体の人材育成の質を向上させていくこともできます。
変化が激しい時代においては、現場での仕事経験を活かした人材育成は必須になります。
負担が大きい施策の1つと言われがちですが、OJTを有効活用していくことで組織力を高め、新しい価値を生み出せる組織づくりへ繋げていきましょう。
スターバックス、学習塾、リクルートを経歴し、大手・ベンチャーのカルチャーを経験。 人材組織開発コンサルティング企業で、自動車メーカー、食品会社、スタートアップ事業で企画、開発、講師を経験。 独自の理論「腹割り対話でつくる組織変革」を提唱。 モットーは「あした、また、がんばろう」と思えるチームを増やすこと。
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